稲穂が頭を垂れた。辺りには穀物が蒸れるような独特の甘い匂いが満ちている。
これはタイの田舎町で嗅いだにおい、バリの田んぼ道にも溢れていた匂い。ここもアジアなんだと思う。
そんな初秋のある日、8才の娘が
「わたし、お話を作る人になりたい。」と言った。
それって小説家の事だろうか。
「本を書く人の事?」うんと返事が返って来た。
それは難しい。
「母さん、それ賛成。でも、いまから何かお話を作る練習をしないと。」と言うと
「うーーーーん。」考えた。
「......出来ないよ。」あれれれれ。
娘が3才の頃、娘とプーさんが森で一緒に遊ぶ話を夜毎、適当に作っては話して聞かした事を想い出した。
本を読んであげたり、娘の描いた絵をほめたり、感性を
育てたいと思っていた。そのはずが今と来たら、負けず嫌いのツボにぴったりとハマったソロバンの時間をせっせと測ってやってる。何かがずれたぞ。そこで
「よし。今夜から母さんがお話を作って話してあげよう。」と提案すると弟と共に喜んだ。
電気を消したと同時に適当に考えるストーリーは姉と弟が登場し、可愛がっているぬいぐるみの家に行く。
クマッチとは森で遊んだり、木いちごにくり、キノコに魚、美味しいものを見つけて食べた。クマタとは北極に行ってペンギンと遊んだ。
今はゾウのパオの家族と暮らしている。全くの単純な話。しかし2人はすっかり虜になってしまった。前夜の予告部分を翌朝突然口にする弟。いったい何の事か分らない母だったりするのだが、あっと気付く。朝から楽しみにしているんだ。
何せ自分たちが主人公なのだから期待も大きいのだろう。
夜は早々パジャマに着替える。だからこっちも昼から話を考えたりして。
そんな話を友人にしたら、ある有名な小説家は夜母親の語る話が面白くて本当に小説家に成ったのだそうだ。
私の場合、一日の終わりに、子供らを激しく怒ってしまった事を反省しつつ、娘の話を真面目に聞かなかった事を悔やみつつ、弟の遊び相手をせず邪険にした事を詫びつつ、たった10分ではあるが罪滅ぼしのお話をさせてもらっていると言うが実のところであるのだが。
( by Yoshiko )