1月の半ば風邪でダウンしていた娘がようやく布団から抜け出て階下に下りて来た。
今夜から食事が出来るかなと娘の好きな煮物を作る事にした。届いたばかりの生協の冷凍鶏肉を凍ったまま切ろうとして力の入った包丁の刃が私の指先の肉をズズッと切り込んだ。
「手を切った。」と突然叫ぶと反対の手で指先を握った。手をとって見てはいけないと思った。
貧血で気分が悪くなる前にやる事がある。
「久しぶりにかなり深く手を切った。」と、すでに消毒液と絆創膏を持って覗き込む娘に告げる。
「母さんが手を離すと血がいっぱい出てそれを見たら倒れてしまうかもしれない。その前にまず父さんに電話しなさい。弟をプールに迎えに行って、仕事用の指サックを持って帰るように言って。」
と、指示をする。娘は非常用電話番号のメモを見ながら電話し
「とーさん、かーさんが包丁で手を切った。Uのプールのお迎え行って。あと指サックを持って来いって。」
その間ずーっと手をおさえ続けた私はそれを見届けると、再び覗き込む娘と一緒にそーっと傷口を見た。ビロンと皮が切れていると思った瞬間血が溢れた。
「おーーー。」素早く消毒液を吹きかけるとティッシュで血ごと拭き取って絆創膏をきつく巻いた。
それから違う角度でもう一周巻いた。
「うーーー。痛いよー。指が脈打って心臓みたいになってるーーー」と泣き声を上げる母に、キッと顔を向けた娘が
「続きは私が切るから。」とパジャマを脱ぎ捨てた。
そして自分の4歳の誕生日にもらった小ぶりな魚包丁を出すと大根、人参、レンコン、里芋と切って行く。スピードは遅いが確実に野菜は切り刻まれる。たのもしー。9年育てたかいがあった。
私は切るのを諦めた肉を鍋にいれ、切り刻まれた野菜を順に片手で突っ込んでいく。
ぐつぐつ煮込んで暇になると
「いたいよー。」と繰り返し繰り返しぶつぶつ言う母を、娘が困ったねぇと言った顔して見てた。
「ありがとう。助かったよ。Sが元気になってて良かったよ。2日前じゃ、Sはげぇー。母さんはいたいよー
で料理が出来なかったもんねー。」と言うと娘がまったくそのとうりと笑った。
かくして救世主の体調回復にもう数日、母の指もしばらく傷み、2人で助け合う日々であったとさ。( by Yoshiko )